監査法人就職売手市場はいつまで続くかを定性的✕定量的に分析した

こんにちは。会計士GTRです。

監査法人の就職に関して「いつまで売手市場が続くか」という質問が多かったので、今後の就職市場がどのように動くのか、過去の推移をもとに考えてみた。

今回はそれについて記事にしてみようと思う。

はじめに

監査法人の就職売手市場が続くかどうかは、考え方としてはシンプルだ。

全ては需要と供給のバランスできまる。監査法人の採用は会計士試験合格者数に依存するので以下のようになる。

  • 監査法人で必要とする人数>合格者人数 であれば売手市場
  • 監査法人で必要とする人数<合格者人数 であれば買手市場

 

そのため、以下の2点について、定性的な視点と定量的な視点の両面から考えてみたい。

  1. 監査法人の人手不足はまだ続いているのか、解消に向かっているのか
  2. 会計士試験の合格者数は今後どう推移するのか

 

定性的分析〜監査法人人手不足に関するニュース〜

まずはここ半年ぐらいの新聞記事の内容を見ていき、定性的な話として、監査法人の人手不足が続いているのかどうか、会計士試験の合格者数は今後どう推移するのか、について考えてみたい。

 

監査品質の向上は会計士不足がボトルネック

2017/10/28

会計士が足りない 監査法人、質向上へもがく

東芝の会計不祥事を見抜けなかったことで監査の質の向上は待ったなし。しかし実際は会計士不足の構造問題が壁となり、投資家の信認を取り戻すための改革がなかなか進まない。

〜略〜

現状は「3月期本決算を控える4~5月は徹夜や休日出勤が当たり前。ブラック企業と言われても仕方ない」(あずさ幹部)のが実態。年々強まる人手不足がネックとなり「現場は過重労働を強いられている」(酒井理事長)。

〜略〜

00年代初めに金融庁と監査業界は一丸となり、会計士を増やそうとした。試験を簡素化し、07年の合格者は約4千人に膨らんだ。だが直後のリーマン・ショックで監査法人が採用を絞り、就職できない「浪人」が続出。会計士の卵たちはハシゴを外され、官民挙げた会計士増員構想は尻すぼみになった。今の就職人気の低下は監査法人自らが招いた面も大きい

(記事から抜粋)

東芝の会計不祥事(なぜ粉飾と書かないのかは謎)がきっかけとなり、監査の品質改善への社会的なニーズは増している。

しかし会計士が不足していてそう簡単には行かないということが書かれている。

ここでも触れられているが、現在の会計士不足の状況は自然発生的に生まれたというよりは、以下のような流れで人為的に起こされたものであると言える。

①意図的に会計士を増やすため試験易化→②うっかり増やしすぎてしまい就職難&試験の難化→③会計士の魅力が減り受験生が減少→④合格者がいなくて人手不足

記事にある責任の所在について、その責任は金融庁にはあれど、監査法人にあるのかは個人的には微妙だと思う。

 

 

2017年度も採用は苦戦が続いている

4大監査法人、17年度採用は1%増 会計不祥事響く

新日本監査法人など4大監査法人による2017年度の公認会計士の採用計画がまとまった。4社合計で970人を採用する見通しで、16年度実績に比べ1%増にとどまる見通し。会計監査の現場では不正会計やルールの国際化への対応で人手不足感が強いが、採用の前提となる会計士試験の合格者は17年度もほぼ前年並みとみられ、厳しい採用環境が続きそうだ

 

〜略〜

監査法人は会計士を計画通りに採用できなくなっている。毎年、会計士の国家試験は約1000人が合格し、大半は新日本、トーマツ、あずさ、PwCあらたに就職する。16年度は4法人で合計1040人の採用を目指していたが、実際に確保できたのは約9割の958人にとどまった。

〜略〜

会計士試験の合格者が減少傾向にある点も採用計画割れの背景にある。かつて金融庁などは監査の質を高めるために会計士の増員構想を打ち上げ、07年度には4000人超の合格者を出した。ただその後リーマン・ショックが起き、監査法人が採用を絞り、現在に至っている。

(記事から抜粋)

四大監査法人が採用で苦戦しているという話。

2016年は1,040人の採用を目指したが958人しか採用できず、2017年も970人の見込みとのこと。

監査法人の採用は会計士試験の合格者数に依存するため、法人の努力ではどうにもならない部分もある。

なお、最後に就職難の原因がリーマン・ショックだと書いているが、これは直接の原因ではないだろう。

J-soxや四半期レビューバブルで一時的需要があっただけで、もとも4000人という合格者数が明らかに過大。そもそも四大監査法人合計でも2万人ぐらいしか会計士がいないのに、毎年4000人合格してたらどんなに景気が良くても就職難は起きていたはずだ。

 

 

転職者も後をたたない状況

2018/1/19

増える「企業内会計士」

公認会計士の資格を持ちながら監査法人ではなく上場企業などで働く「企業内会計士」が増えている。この5年間で3倍に増えた

〜略〜

日本公認会計士協会の増田明彦常務理事は約3万人の会計士のうち1割強が監査法人以外で勤務していると指摘。「年間で約500人が監査法人から転職しているようだ」と話す。

〜略〜

転職する理由は様々だが、繁忙期の長時間労働が敬遠されるほか、以前とは異なり全員が厚待遇のパートナー(幹部)になれないことも、若手の転職に拍車をかけているようだ。「優秀な同期ほど転職していった」(中堅の会計士)

活躍の場は上場企業だけではない。公認会計士専門の転職仲介PCP(東京・渋谷)の桑本慎一郎代表は「新規株式公開(IPO)を目指すベンチャー企業では会計人材は引く手あまた。好待遇で迎えられる」と話す。

 

(記事より一部抜粋)

監査法人はもともと人材の流動性の高い組織であるが、監査法人を辞めて一般企業へ転職する会計士が増えているとのこと。

記事内の数値が正確であれば、年間500人が監査法人から転職しているということなので、1000人採用できても、2歩進んで一歩下がるような状況だ。

人材流出の理由は監査法人の激務な労働環境や、昇格の閉塞感、一般企業でも採用が引く手あまたな状況があるようだ。

 

人手不足を解消するために監査法人でも進む働き方改革

2018/4/2 

監査法人の人手不足は深刻化している。監査法人は企業の監査を担っており、業務の質の低下にもつながりかねない。監査法人は働きやすさをアピールし人材の確保につなげる

トーマツはグループで東京都千代田区に企業内保育園を開いた。定員は40人で未就学児が対象。東京では2000人以上の子育て世代の会計士やコンサルタントが勤務している。職場近くに保育園を設け、育児休暇からの職場復帰を支援する。

新日本監査法人は去年から社員や職員向けに「育児コンシェルジュ」のサービスを始めた。外部の育児専門業者を週2~3回招き、無料で育児相談を受け付ける。

〜略〜

あずさ団体長期障害所得補償保険(GLTD)を導入した。病気などで働けなくなった場合に、休職から3年間、健康保険による公的な補償とは別に給与の最大20%を支給する。あずさが保険料を負担し「予期せぬ病気や事故に対する心配を減らす」狙いだ。

〜略〜

監査法人は上場企業の会計監査業務なども担当し、株式市場において正確な企業情報を投資家に伝えるための重要な担い手だ。公認会計士のなり手の減少を背景にした監査法人の人材不足は、こうした機能の低下につながりかねない。

(記事より一部抜粋)

監査法人でも数年前から働き方改革を進めている。

その背景にあるのは人手不足による過重労働。労基署の指導が入ったという話もある。(中の人はみんな知っている話)

人手不足を解消するために働き方改革アピールをして、採用強化につなげたいということだろう。

 

 

大手監査法人は人手不足からIPOの受注を渋っている

これまで監査法人は将来の有望企業の開拓のため、うまみが少なくてもIPO企業の監査に積極的だった。潮目が変わったのは、東芝などで相次いだ不正会計だ。大手に比べて新興企業の経営リスクは高い。自動運転技術で高い期待を集めながら、東証が上場承認した直後に顧客情報の流出が発覚し上場を延期したZMP(東京・文京)の記憶が新しいだろう。さらに人手不足の影響も大きく大手は一様に及び腰になっている。

(記事より一部抜粋)

私自身ベンチャー界隈にいて「大手監査法人が人手不足からIPOのための監査を受けてくれない」というのは色んなところから情報が入ってくる。

ベンチャー企業は高い報酬を払えないこともあり、かつてはIPOジョブは赤字受注も当たり前な状況にあった。監査報酬は毎年安定して入ってくるLTV(顧客の生涯単価)が大きいビジネスであるから、上場前に赤字が続いても、その会社が上場してしまえば、長期的には投資が回収できるためだ。

しかし、足元の人手不足の状況から将来のために種をまいている状況ではなくなっているのが現在の実態だと思う。

 

 

かつての大量合格時代のように、会計士の供給が大きく増える見込みはない

揺れる監査法人 リスクとのはざま(下)「市場の番人」信頼どう回復

2018/04/12

2006年に会計士試験を簡素化し、合格者が4千人を超す年もあった。会計士不足を解決するための対策だったが、必ずしもレベルの高い会計士ばかりではなくなってしまった
〜略〜
会計士不足は問題だが、長い目でみれば質を確保する方が大事だ。会計士を増やすための会計大学院も厳しい状況が続いている

(記事より一部抜粋)

2010〜2011頃に監査法人就職難が起きたが、その背景として2006〜2007頃に意図的に試験を簡易化し、大量に合格者数を増やしたことがある。

かつての大量合格時代は会計士のレベル低下を招いたため、人手不足であっても以前のように試験を簡易化して合格者数を増やすべきではないということが書かれており、以前のようにいきなり監査法人の人手不足が解消する打ち手は出てこないかもしれない。

 

 

人手不足から新規受注を止めている法人もある

無駄な残業削減、質確保 あずさ監査法人 酒井弘行理事長

2018/04/12

会計監査の現場は慢性的な人手不足による長時間労働で兵たんが伸びきっていた。東芝問題で業界に閉塞感も漂う中、優秀な人材が入ってこなくなると危機感を感じていた。組織運営を根本的に変えるため、昨年夏から監査契約などの新規受注を一時停止し、働き方の見直しに着手した」

あずさかんさほうじんでは人手不足で現場負担が増えていたことから、監査契約の新規受注を止めている状況にある。

(監査法人とはいえ)営利を目的とする企業で、一旦成長を追わず新規契約を止めるというのは相当な事態だと思う。

本当にもうこれ以上リソース増やせないという限界だったということだろう。

 

 

定量的分析〜監査法人での業務負荷はどれぐらい増えているのか〜

次に、三大監査法人で売上規模の拡大やクライアント数に対し、公認会計士等(公認会計士及び試験合格者)が増えているのか減っているのか、一人あたりの負担はどのように推移しているのかを定量的な視点で分析してみたい。

単位は一人あたり売上が百万円、一人あたりクライアント数は社数だ。

新日本

会計士等1人あたりクライアント数・売上高

2010/6期がいわゆるリストラをする直前で最も人が余っていた時期。

そこからの推移で見ると、1人あたりクライアント数は2016/6期から、1人あたり売上高は2017/6から減少していることがわかる。

これは東芝問題でクライアントが離反したことによると考えられるが、結果的に1人あたりの負担は若干は緩和されている。

しかし、グラフ全体の傾向としては2010年以降1人あたりの負担が増え続けている状況にある。

具体的に言うと、1人あたりクライアント数は2010/6期から22%増、1人あたり売上は2010/6期から14%増となっている。

 

会計士等の推移

新日本はリストラをした2011/6以降、基本的に人は横ばいで来ていたがこれも東芝の事件があってか2016/6から徐々に減少傾向になっている。

売上も減っているとはいえ、採用によって人手不足が解消しているとは言い難い状況だ。

また、三大監査法人の中で公認会計士等に締める試験合格者の割合が少ない。相対的に若手が減って組織が高齢化していると言えるかもしれない。

 

 

トーマツ

※トーマツは2017年から決算期を変更した関係で2017/6期は期間が8ヶ月となっている。そのため8ヶ月分の数値を12ヶ月分に割り戻しているが、クライアント数はおそらく正確な数値ではない点に注意。

会計士等1人あたりクライアント数・売上高

トーマツも基本的な傾向は新日本と同じ。

トーマツの場合はリストラ数値が反映されたのは2012/9なので、そこで一気に負担が増えている。

その後しばらく横ばいが続いたが、2016/9期以降は負担が大きく増加している。

具体的には、2011/9期と比較して2016/9期は1人あたりクライアント数で20%増、1人あたり売上高で25%増と負担は大きくなっている。

(※直近数値は決算期変更の影響で正確な数値が取れないため2016/9期と比較している)

 

会計士等の推移

会計士等の推移を見ると、基本的には2012/9以降会計士等の数はゆるやかだが確実に増加している。

試験合格者の人数が三大監査法人で一番多いので、リクルートに成功していると言えるようだ。(一時期人気低迷したという噂もあったが)

それでも前述の通り1人あたりの負担は増えているので、売上・クライアント数の増加には見合っていないとい言えるだろう。

 

 

あずさ

会計士等1人あたりクライアント数・売上高

※あずさは2010/6以前の数値がとれなかったので、2011/6以降の数値となっている。

あずさも傾向としてはトーマツと同じだ。

2012/6以降は一人あたりの負担が増加し続け、直近2017/6は2012/6と比較して、一人あたりクライアント数で10%、一人あたり売上高で16%の負担増となっている。

特徴的なのは一人あたりの負担は三大監査法人の中で一番少ない点だ。

 

 

会計士等の推移

トーマツと同じように基本的にはゆるやかに増加傾向。

あずさはリクルートに強いイメージがあったが、直近の試験合格者数の推移を見るとトーマツに負けているように見える。

また、三大監査法人の中で一番パートナーの人数及び割合が多い。

 

 

定量的分析〜会計士試験の合格者数の推移〜