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キャリア戦略の観点から考える監査法人で得られるもの

2017/02/26

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公認会計士GTRです。

論文式試験が終わった皆様、お疲れ様でした。手応えがあった人も、無かった人も、とにかくよく休んで頂きたい。いずれにしろ長い長い受験生活から一旦解放されるので、しばし自由を満喫すると良いと思う。

とはいえ、公認会計士試験はゴールではなく、受かって初めて公認会計士としての道のりのスタートに立てることになる。まだまだ監査法人の就職売り手市場な状況は続いているので、基本的に好きな法人に入ることができる。だからこそ、このチャンスをうまく利用し、これからの道のりについて自分にとって価値のある選択をして欲しいと思う。

公認会計士試験に受かった場合、みんなあまり深く考えず監査法人、特に四大監査法人に入ることが多い。しかし、公認会計士試験に受かったからといって必ずしも監査法人に入らなければならないわけではない。本来は、いきなり大手監査法人に就職活動をするのではなく、試験合格後はどこでどのように働くか(監査法人かそれ以外か)、監査法人に行くなら大手か中小か、大手監査法人ならどの法人に行くべきか・どの部署に行くべきか、といったステップがあるはずだ。

そして、それらは自分が将来何をしたいかによって変わってくるし、仕事に何を求めるかで変わってくる。

そこで、これから数回にわたって、こうしたキャリアを考えるステップに沿って公認会計士キャリア論というテーマで記事を書いていこうと思う。

第一回目の今回は「キャリア戦略として考える監査法人経験」について。

今回は公認会計士試験が終わった受験生に対し、「とりあえず監査法人に就職」する前に、あるいは「監査法人は嫌だ」と避ける前に、監査法人というキャリアを歩む上でどんなメリット、デメリットがあるのかについて解説するというのがメインの内容になる。

就活に向けて焦る必要はないので、試験後一息ついて時間ができた時に目を通して頂けたらと思う。

 

 

はじめに

さて、早速質問だが、皆さんは公認会計士試験に受かったとして、自分がやりたいことが決まっているだろうか。

監査法人で監査を極めたいという人もいれば、最初から監査法人以外で働くつもりの人もいるだろう。あるいはまだやりたいことがはっきりしていないからとりあえず監査法人に行くか〜という人も少なくないだろう。

色んな考え方があっていいと思うが、終身雇用を前提としない今の時代、別にどこかの会社に行っても一生そこにいる必要はない。監査法人だって一度入った法人にずっと居続けなくたっていいし、逆に監査法人で働き続ける気がなくても、監査法人を経験しとくことで得られるものもあるだろう。特に会計士は自分で資格で食っていくこともできるから、より組織に依存する必要はない。

そこで、今の時代は、自分のやりたいことを実現するために、いかに経験を積んで自分の価値を高めるかが重要になると思う。戦略的にキャリアプランを練る。それがキャリア戦略だ。

監査法人で働くべきか、それ以外のことをやるべきかはその人によって異なるので一概には言えない。それについてはご自身で情報収集して考えるしかない。当ブログでは監査法人での年収や労働環境やその他の実態についてなるべく情報開示する記事を以下の通り書いているので、それらも参考にして考えてみて欲しい。

 

今回の記事は「公認会計士が働く場所として監査法人がいいか悪いか」ではなく、「最終的に監査法人以外で働こうと思っている人に、監査法人で働くことにキャリア形成の観点からどんなメリット・デメリットがあるか」という内容である。

思考停止して「とりあえず監査法人」に行く前に、あるいは「監査法人は嫌だ」と考える前に、監査法人に行って得られるものについて考えてみよう。

この記事で書いた内容については、監査法人や部門を選ぶ上でも「自分はそもそも何を求めて監査法人に入ったのか」という観点から重要になるし、実際に監査法人に入った後も「何を得るために監査法人に入ったか」を明確化しておくことで、監査法人での経験がより有用なものになるので、監査法人に入った後も忘れないでほしい。

 

 

まず自分のゴールをはっきりさせる

具体的な内容に入る前に、最初にやって欲しいことがある。

「今一度、自分が公認会計士に目指そうと思った理由を振り返って、最終的に自分が何をしたいのか、自分にとって重要なことが何なのかを一度じっくり考えてみる。」

これが最初にやるべきことであり、最も大事なことであるとも言えるだろう。

これは本当に一度真剣にやってみることをおすすめする論文試験後の受験生はもちろんのこと、既に働いている方も自分のゴールが定まっていない方は絶対にこれをやった方がいい。

そもそも、良いキャリア・悪いキャリア、成功・失敗、勝ち組・負け組といった判断は、その人が何を重視ししているかで全く変わってくる。

学生で就活を始めた時なんかは「高い年収」や「有名企業=社会的ステータス」といったことを重視しがちだ。もちろんお金や社会的ステータスも大事だとは思うが、それだけが全てではない。自由な時間が多いほど幸福を感じる人もいるだろうし、仕事の楽しさ・やりがいを重視する人もいるだろう。

30歳が目前となってきて、同窓会で昔の友達に会うと、収入面や社会的地位でかなりの差が開いている。しかし収入が高いやつ、社会的ステータスが高いやつが幸せそうにしているかというと、必ずしもそうじゃない。

自分が幸福を感じるポイントが本当はお金じゃないのに、収入を増やすことだけ考えて生きていたら幸せにはなれないだろう。そもそも目指しているゴールが間違っているのだ。その状態でどんなに頑張って走っても疲弊するだけ。

まずは正しいゴールを見つけること。これが一番大事なことだ。そして公認会計士はハードに働いてがっつり稼ぐことも、ワークライフバランスを優先しつつそれなりに高収入を維持することも出来る資格だ。

 

 

では、どうやってこのゴールを見つけるか。一般的な就活でやる自己分析のための本が色々出ているので、それをやってみるのがまずいいかもしれない。ただ就活用の本は本当に新卒の就活対策のためだけの内容で、中身があまり面白くない。

そこで、個人的におすすめするのがこの一冊。

 

グロービス流 キャリアをつくる技術と戦略

 

ワークシートがついていてそれに記入しながら自己分析ができる。

自己分析はけっこう面倒くさい作業だが、人生で少なくとも一度はきちんとやっておいた方が良いだろう。人間以外と自分のことはわかっていなかったりする。

この本を使う時は読むだけじゃなくて実際に手を動かした方がいい。

就活を始める前に、まずは自分がゴールとするものを知ろう。

 

 

なお、特に新卒の方はそうだが、最初から自分のやりたいことが明確に決まっていないことの方が多いだろう。そういう人は別に無理に自分のキャリアの最終的なゴールを設定する必要はないと思う。実際に仕事をする中で価値観も変わるし、仕事をしないと見えてこないものもすごく多いと思うので。

ただ、そんな場合でも自分が重視するポイントについてはハッキリさせて、自分の軸が何なのか明確にして方がいいと思う。自分が人生で得たいものは、お金なのか、地位なのか、安定なのか、自由な時間なのか、挑戦なのか・・・そう言った重視すべき価値観に優先順位をつけることで、今後将来の方向性に迷った時も、自分にとって本当に価値のある選択ができるはずだ。

 

 

 

監査法人で得られるものについて考えて見る

さて、自分のやりたいことについて深掘りして、自分が歩むべきキャリア、あるいは自分が何を重視するかについて考えたところで、いよいよそのゴールに到達するために、監査法人でのキャリアから何が得られるかについて考えてみる。

最初の方でも書いたが、これは「監査法人でずっと働く場合」を前提とするのではなく、「将来監査法人を辞める場合」を前提として、監査法人を経由することで得られるものについて書いている。

 

 

お金の面

まず、どんなにお金が全てじゃないと思っていたとしても、仕事をする上でお金の話は避けては通れない。

やはり監査法人の魅力の一つはお金だと私は思っている。監査法人の給与については以前こちらの記事でも書いたが、大手監査法人であれば1年目〜4・5年目ぐらいまでのスタッフで月額30万円前後、4・5年目以降のシニアスタッフで40万円前後。残業含めた年収で考えればスタッフで600万円前後~シニアスタッフで800万円前後となるため、他の仕事に就いた同年代の給料と比較すれば相対的にかなり良いといえるだろう(前後とはプラスマイナス100万円のイメージだ。残業代の金額と年次による賞与で人による差はけっこうある)。

もちろん監査法人より稼げる仕事もあるが、要求される能力等は監査法人よりも厳しい場合が多いと思う。

 

さて、今回ここで言いたいのは監査法人は給料が良いから監査法人に入りましょうということではない。このお金をキャリア形成という観点からどう考えるかということである。

まだやりたいことが明確でないのであれば、まずは給与面で条件が良い監査法人を選ぶというのは間違いではないだろう。監査法人で働いてみて監査法人に居続けたいと思えばそのまま働けばいいし、結果的に監査法人から出ようと思ったとしても、監査法人で稼いでいれば「まあ監査は続けないけどお金は稼げたから結果オーライ」と考えることができるだろう。

もし将来やりたいことが別にある場合でも、ひとまず給料の良いところに行くというのはありだと思う。将来は転職して別の仕事に就こうと考えている場合でも、転職においては今の仕事の年収をベースとした交渉になるので、年収が高いに越したことはない。自分の年収から大幅にUPする条件で転職するのは大変なため、一度年収が低い道を選ぶとその後年収を上げるのは苦労する。

また、将来独立開業や起業等、比較的リスキーな選択肢を取ることを考えているのであれば、若いうちに監査法人で稼いで貯金しておくというのも有効な手段だと思う。監査法人はお金を貯めるのが目的と割り切って、数年ガムシャラに働き独立するための資金を貯める。

逆に、お金の面で一つ思い当たるデメリットとして、一度監査法人に入ると変に給料が良いため、人によってはその後の転職において思い切った行動ができない場合がある。他にやりたい仕事があっても、なんやかんや監査法人の給料が捨てられずズルズルと居続けてしまうという人もいるのだ。特に相対的にお得感のあるシニアスタッフに多い。

この記事の前半で自分のやりたいことを明確化することをオススメしたが、もし自分にとって重視する価値が「お金」なら、そして監査法人での給料が自分の求める「お金」の水準としてあっているならそれでもいいと思うが、自分の重視する価値が「お金」じゃないのであれば、変にお金に引きずられることなく、本当に自分にとって大事なことを追い求めた方が良いだろう。あるいは最終的にもっと稼ぎたいのであれば、一時的に年収が下がるのを覚悟する必要があるかもしれない。超高額な収入を得る道はそれなりにハイリスクハイリターンなことが多い。

 

このように、監査法人でのキャリアはお金の面で考えると割とメリットが多いような気がする。もちろんこれは比較する仕事によるので、監査法人より稼げる仕事に就ける人は対したメリットにならない場合もある。それから最後に書いたようにデメリットと思えるポイントもあるので覚えておいてほしい。

 

 

経験・成長の面

経験や成長はキャリア戦略として考えた場合に最も重要なポイントだろう。これについては将来何がしたいかでメリット・デメリットは大きく変わってくる。また、いつまで監査法人にいるかでも得られるものが変わってくる。

 

一般企業のバックオフィスを目指す場合

例えば将来一般事業会社の経理・財務や内部監査室などを目指すのであれば、最初から一般事業会社に就職するより、まずは監査法人で財務諸表監査・内部統制監査の経験を積んだ方がいいかもしれない。

監査法人の仕事は当然「監査業務」がメインになる。監査業務は色々な会社にいき、多様な会計論点に触れることが出来る。自分の所属する部署や相手とするクライアントによっても異なるが、国内監査部門であればシニアスタッフになるぐらいには特殊な会計論点を除けばひととおりの会計論点には触れるだろうし、連結や開示についても色々な事例を知ることができる。

また内部統制監査でも色々な会社の内部統制を見ることになる。出来の良い会社も悪い会社も見ることができるのは大きなメリットだ。

普通の会社では他社がどうなっているかを知る機会は少ないため、自分の会社の事例しか知らないことも多い。監査をしていて企業の経理部長、内部監査部長、あるいは経営者の方と話すと「こういう時他社さんてどうしてるんですか?」という質問がかなり多い。やはり色々な事例を知っているというのは監査業務を経験する大きなメリットだろう。

 

公認会計士・税理士として独立開業を目指す場合

また、将来独立開業を目指すのであれば、一般的には監査よりも税務で食っていく場合が多い気がする。そういう場合は、税理士法人で経験を積んだ方がキャリアにプラスになる場合もある。但し、独立開業しても監査法人で色んな企業の内側を知ったり経営者と直接話す機会があるということにはプラスの面がたくさんあるし、監査・税務以外にも例えば内部統制構築支援等のコンサル業務もあり、これについては税理士よりも監査法人出身公認会計士の方が有利な面もあるだろう。これについては監査法人で何年、税理士法人で何年といったイメージを持っておくことが大事かもしれない。もちろん税理士法人を経由せず監査法人を辞めてすぐ独立開業する人も一定数いる。

 

コンサルティングファーム等

一方で、将来やりたいことが「会計」や「監査」と直接的に関わりがない場合は、監査法人での経験は必ずしも評価されないこともある。

その代表格として、例えば監査法人からの人気の転職先の一つであるコンサルティングファームがある。

コンサルといっても戦略、人事、IT、財務、事業再生etcと色々あり全てがそうではないが、特に人気の戦略コンサル等は監査法人の経験はほとんど評価されないという。会計と関係が強い財務コンサルであっても、「監査法人でしっかり監査経験を積んだ中堅」よりも「経験はあまりなくてもある程度会計に精通した若手」の方が好まれる。

コンサル経験がないのであればポテンシャル採用となるので、監査法人で経験を積むより若さの方が評価される。そうであればあえて監査法人を経由するのは遠回りになるだろう。そうであれば、若さと公認会計士試験に受かったというポテンシャル面を全面に押し出して最初からこうしたコンサルを目指すというのも手だろう。あるいはいきなり戦略コンサルはきついので、一旦BIG4系の総合コンサルで経験を積み、コンサル経験者枠での採用を目指すというのも手だ。BIG4系コンサルは公認会計士資格があれば普通に入れると思う。

 

監査・会計から全く離れる場合

ここまでは公認会計士の資格を生かす方向で書いてきたが、公認会計士になったけどやっぱり監査・会計に関する仕事を一生やっていく気になれなくて、営業になりたいとか、マーケティングがしたいとかいう場合だってありえるだろう。

そうした場合は目指す方向の大きな転換が必要となるので、これについては早く決断した方がいい。別に公認会計士になったからといって一生会計と付き合っていかなきゃいけないわけではない。実際私の周りでも、監査法人を辞めてプログラマーとして起業した人や、全然関係ない業種の営業に転職した人等、監査・会計から離れた人も少なからずいる。

そういった人も若ければ公認会計士試験に受かったというポテンシャル面が評価される場合はあるし、企業の中で経済活動に関わる以上会計知識がどこかで生きるタイミングはあるので、公認会計士試験に合格したことは無駄にはならないはずだ。

 

 

このように、将来の転職を前提として自分のキャリア形成といういう意味で考えた場合、監査法人での経験はそれが評価される業界・職種もあれば、全く評価されない場合もある。自分が最終的にやりたいことから考えて、監査法人でどれぐらいの期間、どのような経験を積む必要があるのかは入る前から考えてみて良いだろう。

場合によっては監査法人に入ることが結果的に遠回りになる場合もあるので、監査法人を経由しないという選択肢も当然あり得るのだ。

なお、監査法人であったも監査だけをしているわけではないので、監査以外にも経験を積むことは当然可能である。例えば監査法人でも非監査業務として、IPO支援(上場支援)や、コンサル・アドバイザリー業務、事業承継、財務DD、その他のFAS業務等、実は色々なことをやっていたりする。

ただ、監査業務以外を経験できるかどうかは所属部署、所属チーム、上司、タイミング等によって左右されるので注意が必要だ。どの監査法人も監査業務が手一杯で若手(特にスタッフの間)の間は監査業務以外を経験する機会が少ないのが現状かと思う。3年程度でやめるつもりなら監査業務しか経験できないと思っといた方がいいだろう。

一方で、年次が上がると監査以外の業務をやる機会はだんだん増えてくる。また4年目ぐらいかは出向や海外派遣等のキャリアプランもあるので、どの程度監査法人にいるかで得られる経験の幅はかなり変わってくる。

 

 

出向・転籍・駐在などのキャリアアップのための制度面

監査法人はそれなりに大企業で、ネットワークも広いので監査法人にいながら幅広い経験を積むための、キャリアアップの制度面は充実していると思う。

主な選択肢としては出向、転籍、海外短期派遣・駐在等がある。

 

出向

出向についてはグループ内のコンサルや税理士法人等へ行くパターンもあれば、銀行や証券会社等の事業会社や経産省等の行政機関等の選択肢もある。期間は2年ぐらいが多いように思う。

監査法人に在籍しながら外の世界を知って知見を深めることができるし、それを監査法人に戻ってからの武器(=他の人との差別化)にする人もいるし、外の世界の方が良いと感じて会計士をやめて転職してしまう人もいる。監査法人での身分が保証された上で外の世界を経験できるので、監査法人以外のキャリアを考えている人によっては、監査法人を辞めて失敗する可能性を考えると転職よりもリスクが低いというメリットがある。

 

転籍

転籍はグループ内のコンサル、税理士法人、アドバイザー等が選択肢に上がる。転籍は監査法人という組織からは完全に抜ける形となるので簡単には認めてくれない場合が多い。特にスタッフの間は認められないことが多く、結局退職して別のBig4系のグループ会社に転職する人もけっこういる。ただ、一度グループ外に出るとこれまで築いたシニアスタッフ、マネージャーという地位がリセットされてしまう場合が多く、グループ内で転籍であればこれまで築いた職位を引き継げる(1階級下がる場合もある)ので、グループ内で転籍するメリットは少なくない。

 

海外派遣・駐在

海外短期派遣や駐在は監査法人内で最も人気のキャリアプランと言えるかもしれない。期間は短くて3ヶ月程度~長くて4年程度。毎年一定数の募集があり、数ヶ月の派遣であればスタッフの4年目ぐらいから、2年程度の中期派遣であればシニアスタッフから、それ以上の本格的な駐在であればマネージャー以上から認められるイメージだが、多少の例外もある。

毎年一定数の募集があるが、人気は高く席の取り合いになる。認められるかどうかは、当然英語力は前提条件として求められるとして、日常の仕事の評価で推薦が得られるかや、面談での自己アピール等によって決まる。

仕事内容はどこの国に行くかや派遣期間によっても違うが、海外で監査チームのスタッフとして働いたり、監査チームの主任をやったり、日系企業の現地法人の対応等様々だ。

 

 

監査法人は(少なくとも私の所属法人は)自分で「これをしたい」という成長意欲がある人に対して、若い年次からかなり積極的かつ柔軟にチャンスをくれる法人だと思う。ずっと監査法人にいるにしろ、将来別の道を選ぶにしろ、監査法人に入りこうしたキャリア制度を最大限利用して自分の経験値を上げるのはありだと思う。

但し、人手不足の現在においてはそもそも通常の監査業務の人手も足りない状況なので、こうしたキャリア制度の募集枠は減っている感はある。また、こうしたキャリア制度は入社してすぐは利用できないため、少なくとも数年間は監査法人に居続ける必要がある。そこは注意が必要だ。

 

 

労働環境・学習環境の面

仕事のハードさは比較する仕事によって変わってくる。

一般事業会社のバックオフィスに転職した人は監査法人より残業は圧倒的に減ったというし、コンサルや投資銀行に行った人からは監査法人の方がまだマシという声が多い。

個人的にはやはり繁忙期の残業は多すぎると思っている。

今は残業代はつけた分だけもらえるところが多いと思うので、残業時間が多いというのは収入面ではプラスになるが、自分の時間が減り仕事以外の自己研鑽する時間がなくなるというデメリットもある。

 

 

キャリア形成という意味で考えた場合、自己研鑽する時間というのは重要になる。

「経験・成長の面」のところでも書いた通り、一般企業の経理や内部監査、あるいは独立開業を考えた場合は、監査法人での仕事の延長線上にあるので仕事で得られる経験こそが最大の武器となる。忙しい方が成長するという面は当然あると思うので、若いうちはハードに働いた方がより成長できるだろう。

一方で、公認会計士としてのスキル以外に身につけるべきものがある場合は忙しい監査法人という環境はマイナスになる場合ある。

例えば、「外資系の企業に行きたいから英語を勉強しているが、せっかく勉強しても繁忙期に全て忘れてしまう」とか「海外でMBAを取得してコンサルに行きたいから、MBA対策の勉強をしているが忙しすぎてなかなか時間が取れない」というような人。

忙しくて仕事に没頭するまま数年が経ち、監査経験以外武器になるものが何もない、別業界に転職は厳しいということにもなりかねない。

これについては入る法人、入る部署、入るチームによっても変わってくるので一概には言えないが、場合によっては監査法人の忙しさはマイナスになる場合もあることは意識しておいてもいいかもしれない。じゃ楽な会社に行けばいいかというと、若いうちに楽な仕事だけするのはそれはそれでビジネスマンとして成長しない気もするが。

 

 

人脈の面

監査法人に数年いて感じたのは社内外の人脈の以外な強さである。これについては監査法人に入る前にはあまり意識していなかったが、入ってみるとその人脈の強さに驚くことがある。

 

転職する場合

例えば転職する場合、通常は転職エージェントを通じて転職活動をすることになるが、監査法人にいるとクライアント先から引き抜かれることも少なくない。一緒に仕事をする中で能力を評価され、それなりのポジションで引き抜かれるので待遇も良いことが多い。また、監査を通じてすでに中を良く知った上で入るので、入ってみたら全然印象と違ったというようなミスマッチも少ない。もっとも、こうした例は多いわけではない。

また、直接仕事で関わりがあるクライアントから引き抜かれる場合以外にも、将来転職しようと思って上司に相談したら「それならすごく良い会社があるよ」と、別のクライアントに推薦してもらえることもある。こう言う場合も、会社をよく知る公認会計士の推薦する会社なので、転職が成功することは多いようだ。

それから、IPO(新規上場)支援をやっている部署だと、ベンチャー界隈への人脈がものすごくできる。具体的には証券会社の人、ベンチャーキャピタリスト、ベンチャーのCEO・CEO、ベンチャーに行った監査法人OB等。自分自信が直接人脈を持たなかったとしても、IPO支援・ベンチャー支援を得意とする人と接点があれば繋げてくれることも多い。IPOに当たっては、どの会社もIPO業務を担える人材を探しており、IPO支援業務を経験した監査法人の会計士はかなり重宝される。一方で転職サイトへの求人が載らない場合もあるので、監査法人の人脈を生かしてコネクションを作った方が早くかつ有利に転職できる場合も多い。

 

独立開業する場合

独立開業する場合も、監査クライアントから業務を受注できる場合も少なくない。

一般的には同業で独立する場合に、自分が元いた会社のクライアントと取引をするということは元いた会社の仕事を奪うことになるので良い顔をされないのが通常のように思うが、監査法人と独立開業の会計事務所ではそうとも限らない。監査法人は監査クライアントに対しては独立性の観点から提供できない業務があるので、仕事の領域がぶつからないことが多いからだ。

例えば、監査法人のIPO支援クライアントの場合、内部統制が整っていないとか、企業に財務諸表作成の十分な能力が無いことが多い。これに対し、監査法人は助言・指導はできるが、直接内部統制構築支援サービスを行うことはできない。そこで信頼できるOBの会計事務所を紹介し、OBの会計事務所が内部統制構築支援を行い、監査法人は独立性を保持して監査業務を行うという住み分けが可能なので、監査法人のクライアントから仕事を受注しても利害は対立しないし、監査法人から紹介されて仕事を受注するということもありうるのだ。

そのため、将来独立開業を目指している人は、監査法人の中で人脈を築くことはけっこうメリットがあると思う。そのためには日頃の仕事ぶりをきちんと評価され、周りからの信頼を得る必要がある。

 

 

その他の面

最後に監査法人を経由するその他のメリット、特にファーストキャリアとして監査法人を選ぶメリットを挙げておく。

 

公認会計士登録までの様々なサポート

監査法人は当然ながら公認会計士のための組織であり、公認会計士登録のサポートは圧倒的に手厚い。単に実務経験が得られるというだけでなく、例えば以下のようなポイントだ。

  • 実務補習所の費用183,000円の法人負担
  • 実務補習所の授業がある場合に早く帰してくれる
  • 実務補習所の研修合宿時に付与される特別有給4日間
  • 終了考査時に10日間の特別有給
  • 終了考査前はまとめて休みを取る人が多いので、特別有給10日間に通常有給10日程度を加えて丸1ヶ月程度休む人も多く、法人としても「勉強しなきゃいけないから終了考査前はまとめて休むのが普通」という雰囲気がある
  • 公認会計士登録時の費用150,000円の法人負担

このように公認会計士登録までの間手厚いサポートが受けられるので、公認会計士登録が完了するまでは監査法人に残るという人が多い。補習所費用と登録料をお合わせると30万円を超えるので、けっこうな金額である。また、一般企業では終了考査だからといって長期間は休みづらく、なかなか勉強に時間を割けない人が多いらしく、監査法人よりも終了考査受かるのに苦労しているそうだ。

また、こうしたサポートのあるなし以前に、終了考査は基本的に「監査業務をする会計士」を対象とした内容となっているため、監査の実務に接していないと不利という面もある。

そのため、公認会計士登録を考えるとファーストキャリアとして監査法人を選ぶメリットはけっこう大きい。

 

独立開業するなら有効になる監査パート・外部協力者制度

監査法人には、監査法人に所属していない公認会計士(試験合格者含む)を雇う監査パートあるいは外部協力者と言われる制度がある。要は監査法人に所属して正社員(職員)として働くのではなく、短期アルバイト・パートタイムのような形で特定の期間だけ協力するという制度のことだ。

アルバイトと言っても、時給で言えば監査法人の正社員よりも高い。同じ年次であれば、この監査パートは通常職員の倍以上の時給となり、スタッフ相当でも1日で数万円を稼げてしまう。

なぜ高い時給を出してまで自分の法人以外の会計士を雇うかというと、監査法人の業務量は季節的変動が極端に大きく、繁忙期に仕事が集中するからだ。正社員ではない監査パートという形をとれば、人手が不足する時期にだけ労働力を確保でき、閑散期には給料を払わなくていいため、人件費を変動費化でき、結果的にコスト負担は少なくて済む。

一方で、雇われる側は独立開業するために監査法人を退職した人が中心となる。独立開業を目指して退職しても、すぐには仕事がたくさん取れる人は多くない。営業活動をして徐々に自分の会計事務所としての仕事を増やしつつ、自分の仕事が軌道に乗るまでは監査パートで稼いで食いつなぐということが可能となる。監査パートをやると監査法人が繁忙期になる4月〜6月だけ働いたとしても数百万稼げるので、自分の事業が軌道に乗るまでの副業としてはかなりお得だ。

そのため、将来独立開業を目指すのであれば、監査法人を経由することで比較的リスクを抑えつつ独立開業が可能となるので、覚えておくといいだろう。

 

 

キャリアの順序という観点から考えてみる〜監査法人へ転職する場合の注意点〜

キャリアを考える上ではその順序はとても重要になる。

例えば最終的に監査法人で働き続けるつもりだが、一度コンサルに入り自分を鍛えたいというような場合、コンサルに入る上では若さが重要な評価指標になるので、ファーストキャリアでコンサルに入るか、なるべく若いうちにコンサルへ転職した後、ある程度経験を積んだら監査法人に入るという形がいいだろう。

あるいは、最終的に企業の管理系部門の役員にないたいという場合、いきなり新人として会社に入るより、監査法人でマネージャー程度まで経験を積んでから、それなりのポジションで一般企業に転職した方が、役員に到達するスピードが早いかもしれない。

監査法人で働くにしても、将来は海外で活躍する仕事がしたいと思っているのであれば、監査法人に入る前に1年程度海外留学して英語力を鍛え、「英語がデキるやつ」という立ち位置で監査法人に入った方が、海外案件にアサインする機会が増え有利になるかもしれない。

このように、ゴールがはっきりあるのであれば、より具体的に、どの順序でどういうキャリアを歩むべきかは意識しておいた方がいいと思う。そして、そうしたキャリアプランを練った結果、ファーストキャリアで監査法人を選ばず、別の仕事を経験してから監査法人に入るという選択ももちろんあるだろう。

 

ここで注意して欲しいのは、監査法人への転職においては一般企業と異なる特徴的なルール(慣習?)があり、それを十分考慮して転職しないと結果的に昇格が遅れるなど損をすることがあるということだ。

具体的には、監査法人(あるいはBIG4系別業種)への転職においは以下のような特徴がある。なお、転職じの交渉次第な部分もあり、必ずこうなるわけではない。

  • 監査法人では前職で監査の経験がなければ新人と同様の扱いとなり0からのスタートとなる
  • 前職が監査法人の場合でも、経験年数が1〜3年程度であると、その経験年数は考慮されず、新人と同様0からのスタートとなることがありうる
  • 前職が監査法人の場合でも、中小の監査法人だと、その経験年数は評価されず、新人と同様0からのスタートとなることがありうる
  • 大手監査法人から大手監査法人への転職の場合、職位は引き継がれるが、その職位での経験年数はリセットされることが多い。ただし交渉次第なところもある。(例えば新日本でシニアスタッフ3年目の時にトーマツに転職すると、トーマツではシニアスタッフ1年目と同期扱いとなるようなイメージ)
  • 大手監査法人から他業種を経由して別の大手監査法人に入る場合もこの傾向は同じ(例えばトーマツでシニアスタッフ3年目で転職し、一般事業会社の経理を2年経た後、あずさに転職するとシニアスタッフ1年目となるようなイメージ)
  • BIG4系の他業種へ転職する場合、グループ内への転籍だと職位据え置きか1つ下落することがある(例えばあずさ監査法人のシニアスタッフがKPMG FASに行くとシニアスタッフのままかスタッフからのスタートとなるようなイメージ)。但し、職位が1つ下がっても翌年にはすぐ元の職位に昇格できることも多い。
  • BIG4系の他業種へ転職する場合、グループ内への転籍が認められず、一度退職してから入社し直す形をとる場合、新人と同様0からスタートすることがありうる(例えばあらたからpwcコンサルへ転籍を希望したが認められず、諦めて退職した後pwcコンサルに入社する場合、新人と同様の扱いとなるようなイメージ)。
  • BIG4系の他業種へ転職する場合、一度退職しグループ外へ転職する場合は、新人と同様0からのスタートとなることがありうる(例えばあずさ監査法人からpwcコンサルへ
  • ここまで色々書いたように、前職の経験年数がリセットされることがあるが、前職があって実際に働いてみて優秀であれば、飛び級として通常の昇格年次より早く昇格できることもあるので、プラスマイナス0になることもある。

以上少し長くなったが、このような特徴があるので、監査法人への転職を考えている場合は注意して欲しい。具体的には例えば以下のようなことがありうる。

『監査法人に入る前に少し経理の実務を経験しようと思って一般企業に入り、その後監査法人に入ろうと思っていたが、意外と経理の居心地がよく、経理で10年働いた後監査法人に入った。しかし経理の経験値は全く考慮されず新人扱いとなった。一方同じ年に合格して監査法人に入った友達はマネージャーに上がっていた。

『スタッフ4年目で監査法人からFASへ転籍した。FASではスタッフの経験がリセットされたため、さらに4年間働きシニアスタッフ(シニアアソシエイト)に昇格した。もしあと1年監査法人に残りシニアスタッフになってから転籍していれば、シニアスタッフのままFASに移動できた。』

 

 

まとめ

以上、いかがだっただろうか。もしこれからキャリアを考える上で参考になれば幸いである。

結局、会計士にとって監査法人が良いとか、他の業界が良いとか、そんなことはその人次第なので一概にどうこう言うことはできない。しかし、どんなキャリアを歩むにしろ、その仕事以外のキャリアが無駄になるわけではない。自分の望むゴールに到達するためには、その仕事で得られるものをしっかり理解して、適切な組み合わせ、適切なタイミングでキャリアを構築し、その効果を最大化することが重要だと思う。

そのため、自分のキャリアをどう考えるかは、単にキャリアの計画を意味するキャリアプランではなく、より戦略的にキャリアを考えるキャリア戦略という言葉の方が、今の時代、特に会計士のような多様な働き方ができる仕事においては合っていると思っている。

このキャリア戦略という言葉はあまり一般的には使われないかもしれないが、自分のキャリアを考える上では意識していい考え方だと思う。

 

 

最後に私が自分のキャリア戦略を考えるようになったきっかけの本を1冊紹介する。

戦略コンサルタント、外資系エグゼクティブ、起業家が実践した ビジネスエリートへのキャリア戦略

 

この本は、どちらかというと社会人経験のある人こそ読んだ方がいい内容だが、これから就職する人にもとても参考になる内容だと思う。

特に、公認会計士という資格取得はあくまでステップアップのための一段階にすぎず、さらに自分の価値を高めて活躍したいと考えている人にはすごく良い本だと思うので、時間がある時に一読することをお勧めする。

 

 

さて、今回はここで終了だが、今後もしばらくこの「公認会計士キャリア論」シリーズを書いていく。今後は、論文試験後就職するまでにやっておくといいこと、監査法人の中でより効果的に経験を積む方法や、監査法人で出世を目指す上で重要なポイント等について書いていく予定だ。

 

-公認会計士キャリア論


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