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監査法人日記10〜人件費の分析的実証手続と詳細テスト〜

2016/02/13

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※登場する人物名・組織名は全て仮名です。


 

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現預金の検討が終わると、次は販管費の検討に入った。

販管費の検討は会社のことがわかって結構面白い手続きだ。

 

 

GTR「販管費て監査手続書※を見ると手続がたくさん書いてありますね。」

※監査手続書はどの勘定科目でどんな手続を実施するかが書いてあるもの。

先輩「そうだね、販管費は分析的実証手続と詳細テストを両方やるからね。」

GTR「受験時代に学んだあれですね。」

 

 

 

A30.実証手続は、アサーション・レベルの重要な虚偽表示を発見するために立案される。実証手続は、詳細テストと分析的実証手続で構成される。実証手続は、関連するアサーションにおいて虚偽表示となる状況を識別するという手続の目的に適合するように立案される。

監査基準委員会報告書500

 

GTR「なんか無駄に難しく書いてありますけど、要は手続は詳細テストと分析的実証手続の二種類があるから、状況にあった方でやれよってことですよね。」

先輩「そうそう。特定の取引や残高を対象として個別に検証するのが詳細テスト、一定の関係性の中から発生すべき金額を推定し、全体の発生額を検証するのが分析的実証手続だな。」

GTR「売上の金額を契約書とぶつけたり、売上入金を通帳で確かめたりするのは詳細テストですよね。あとは現金実査とか確認状発送は詳細テストですよね。一方で、固定資産の簿価に対して減価償却費発生額がおかしくないかを見たり、従業員数に対して給与発生額がおかしくないかを見るのが分析的実証手続ですね。」

 

 

 

先輩「分析的実証手続と詳細テストはどういうふうに使い分けるかわかる?」

GTR「そうですね。何かに連動して発生するものは分析的実証手続が出来るって聞いたことあります。」

先輩「そうだね。基本的には、分析的実証手続でできるものは分析で、それができないものは詳細テストをやることが多い。多くの場合分析的実証手続の方が効率的だからね。具体的に分析的実証手続が向く科目と、詳細テストが向く科目って何かわかる?」

GTR「人件費とか、地代家賃とか、水道光熱費は分析が向いてる気がします。逆に向かない科目は・・・あんまり思いつかないですね。」

先輩「向かない科目は、B/S科目が多いかな。あとは業種にもよるけど広告宣伝費とかだね。具体的に手続をやってみようか。」

 

 

給与手当の分析的実証手続

人件費の増減表(単位:千円)

前期 当期 増減 増減率
役員報酬 200,000 210,000 10,000 5%
給料及び手当 5,065,853 5,391,372 325,519 6%
雑給 8,661,050 9,428,670 767,620 9%

 

先輩「さて、これをどう分析しようか」

GTR「この場合は、一人当たり人件費を使って分析を行いますよね。給与及び手当は正社員の人数に連動して増加します。前期は平均従業員数が1,123人なので、一人当たり平均給与が4,511千円ですね。これに当期の平均従業員数を乗じて期待値※を算出し、会社の計上額と比較します。こんな感じですかね。」

※期待値とは分析的実証手続において正常値として推定される値

 

給与手当の分析的実証手続(単位 金額:千円 人数:人)

①前期 給与及び手当 5,065,853
②前期 平均正社員数 1,123
③前期 一人当たり金額(①/②) 4,511
④期首正社員数 1,187
⑤期末正社員数 1,255
⑥平均正社員数((④+⑤)/2) 1,221
⑦期待値(③×⑥) 5,507,931
⑧実際計上額 5,391,372
⑨差異額(⑧-⑦) -116,559
⑩許容金額 100,000

 

 

先輩「そうそう。こんな感じ。ただこれだと許容金額を超えてるな。」

GTR「そうですね。実際の計上額が期待値を下回ってますね。分析的実証手続は必ず許容金額以内まで差異をつめなきゃいけないんですよね?」

先輩「そう。許容金額ってのは、要はこのぐらいの差異なら合理的な範囲内ですよっていう目安の金額。それを超えているってことは異常な差異が出てるってことだな。許容金額の求め方は長くなるから今回は割愛するけど。」

 

 

 

GTR「こういう場合はどうやって差異を詰めればいいんですか?」

先輩「いくつかやり方はある。まずは厳密に計算をしてみる。今は期首と期末を足して2で割ってるけど、月末人員数を足して12で割った方がより正確な計算になるから、その方がいいね。他により深く分析するとしたらどうすればいいかな?」

GTR「えーっと、後は分解して差異の原因を特定してみるとかですかね。給与手当を基本給と残業代に分けてみるとか、一年間の発生額じゃなくて月別で分析してみるとか。そうすると、例えば残業代がすごい減ってるとか、特定の月の発生額が減ってるとかがわかるので、原因を追求しやすいですね。」

先輩「そうそう。そうやって少しずつ原因をつめていくってことだな。」

 

 

 

こうして差異の原因を分析して許容金額以内の合理的な差異となるまで分析を続けた。次は雑給だ。

 

 

雑給の分析的実証手続

GTR「雑給ってパートとかアルバイトの給料ですよね?」

先輩「まあ勘定科目としてそう使うって決まりがあるわけじゃないのかもしれないけど、正社員の給料とは区別して雑給を使う会社は多いね。有価証券報告書で開示する時は給与及び手当の中に含めるのが普通だけど。」

GTR「じゃあ雑給も同じようにアルバイト・パートの人数でやればいいですか?」

先輩「いや、アルバイトとかパートは時給で給料が発生するだろ?週5で8時間働く人もいれば、3日だけ5時間働く人もいる。だから人数ではなく勤務時間数をもとににして分析を行った方がいいよ。」

GTR「あ、確かにそうですね。じゃあ会社からパート・アルバイトの勤務時間データをもらってきます。」

 

 

 

こうして雑給は勤怠時間を使って分析的実証手続を実施した。

やり方は給与及び手当の「平均正社員数」を「勤務時間数」にして、「一人当たり金額」を「時間あたり金額」に変えるだけで、基本は変わらない。

 

 

雑給の分析的実証手続(単位 金額:千円 時間:時間)

①前期 雑給 8,661,050
②前期 勤務時間数 7,998
③前期 平均時給(①/②) 1,083
④当期 勤務時間数 8,676
⑤期待値(③×④) 9,395,258
⑥実際計上額 9,428,670
⑦差異額(⑥-⑤) 33,412
⑧許容金額 150,000

 

 

 

企業作成情報の検討

先輩「ところで、従業員数とか勤務時間データとか、会社からもらったデータを鵜呑みにして使ったちゃダメだぞ。分析的実証手続をする時は、その元となるデータの検証を行うことが大事だ。会社から偽のデータをもらってたら分析が意味なくなっちゃうからね。」

GTR「あーなんかそれ聞いたことあります。監基報(監査基準委員会報告書の略)に書いてあるやつですよね?確か・・・」

 

 

8.監査人は、企業が作成した情報を利用する場合には、当該情報が監査人の目的に照らして十分に信頼性を有しているかどうかを評価しなければならない。これには、個々の状況において 必要な以下の事項が含まれる。

(1) 企業が作成した情報の正確性及び網羅性に関する監査証拠を入手すること(A49項からA50 項参照)

(2) 企業が作成した情報が監査人の目的に照らして十分に正確かつ詳細であるかどうかを評価すること(A51項参照)

 

監査基準委員会報告書500

 

 

先輩「そうそう。いわゆる会社作成情報の正確性と網羅性ってやつだな。」

先輩「例えば、正社員人員数だったら、普通は人事給与システムに従業員データを入力して給料を計算するだろ?まさか手で計算するわけにはいかにからな。だからシステムに登録されたデータからサンプルをとって、雇用契約書と勤務開始日が一致しているかを見たり、退職した従業員がデータから除外されているかを見るんだよ。これが正確性。」

先輩「それから、パート・アルバイトの勤務時間であれば、店舗棚卸の時とかに実際の店舗でのシフト表やタイムカードの記録を見て、それが勤怠システムの時間データと一致していることを確認するって感じだな。これも正確性だね。」

 

 

 

GTR「なるほど。網羅性はどう見るんですか?」

先輩「例えば、特定の月の給与の支払い対象人数を見て、それがシステムに登録された人数と一致しているかを見るとかだな。」

GTR「結構めんどくさそうですね。」

先輩「まあ実際は期末監査に入る前に、内部統制評価のタイミングとかで終わってるものが多いから、今回はそこは気にしなくていいよ。」

 

 

 

役員報酬の詳細テスト

GTR「確か役員報酬は分析的実証手続ではなく詳細テストを実施するんですよね?」

先輩「そうそう。役員報酬は対象者の人数が少ないから全件を詳細テストしてもそんなに時間はかからないからな。効率性はそんなに重視されないんだよ。」

先輩「それに、数千人いる従業員の給料は、入社や退社があって人が入れ替わっても、結局全体の中では平均化されることを前提に分析的実証手続をやってるけど、役員みたいに人数が少ないと、役員の交代があったら大きく金額も変わっちゃうから、分析が馴染まないんだよね。」

 

 

 

GTR「なるほど。詳細テストに使うのは株主総会の決議で定められた役員報酬の金額ですよね。」

先輩「そう。まあ一般的には上限だけ決めて、詳細な内容は取締役会に委ねることが多いから、取締役会の決議内容との一致確認により詳細テストする感じだけどね。」

 

 

 

GTR「それにしてもみなさんこれだけもらってるんですねー。すげー。」

先輩「超個人情報だから取り扱いには注意しろよ。」

GTR「は、はい。しかしこれだけもらえるようになってみたいです・・・」

 

 

 

こうして人件費の分析を行った。

他人の会社の給与額や、役員の誰がいくらもらっているかをここまで把握できる仕事は会計士ぐらいではないだろうか。

 

 

 

分析的実証手続をやる上では、単に実際発生額と期待値の差異が大きくないかを見るだけでなく、差異の方向性が社会の動向や会社の戦略から見ておかしくないかという視点が大事になる。

例えば、今年もそろそろニュースで話題が出ると思うが、近年は比較的景気が上向いていてベア(給料のベースアップ)が起きているため、大手の会社であればどちらかというと平均給与額は上がる傾向にあることが多い。

あるいは、会社が新卒採用を大幅に増やして従業員に占める新人の割合が増えれば平均給与は下がる傾向に出るだろう。

 

 

こうした全体観を持つことが新人会計士にとっても大事なのだ。

 

 

続く。

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 comment
  1. さる より:

    続きはいつアップしますか?楽しみにしています。販管費(運送費、交際費、旅費など)の分析手法などもあれば勉強します。

  2. GTR より:

    さるさん

    サボり気味ですいません。かつコメント確認するのが遅くなりすいません。
    そう言っていただけると大変モチベーション上がります。
    仕事に追われて更新が止まっています。
    内容の薄い記事を書きたくなくて、一方でしっかり内容を考える時間がなくてなかなか書けていません。
    頑張って、3月中旬ぐらいには更新したいなと思ってます。

  3. GTR より:

    さるさん

    記事更新しました!
    お待たせしました。

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