こんにちは。公認会計士GTRです。
時期的にそろそろ監査法人でも新人研修が終わり、部署に配属されたり現場に行くようになる時期だ。
質問箱への質問でも、会計士として活躍するにはどうしたらいいか、どういう人が評価されるのかといった質問を多く頂く。
そこで今回はデキる新人会計士になるために必要なことを10個リストアップして解説してみたいと思う。
なお、事前にことわっておくが内容は当たり前なことが多い。しかし、当たり前なことを当たり前にできる人は意外に少ない。
新人というのはこれからの長いビジネスマン人生のスタートの年。
新人の評価だけでこれからの人生が決まるということはないが、新人としての評価が良ければそれだけその先のチャンスにも恵まれやすいので、是非良いスタートダッシュをきってほしいと思う。
Contents
ホウレンソウの徹底
監査法人にかぎらず、あらゆる仕事においてホウレンソウは非常に重要だ。
ホウレンソウとは報告・連絡・相談のこと。
特に悪い報告ほど早くすべきというのは良く言われる。
新人のうちはまだわからないことばかりで仕事が上手く進められず困るシーンはいくらでもある。
新人なのでなんでも上手くできる必要はない。その代わり困った時はすぐに困っていることをアピールするのが新人にとって重要な仕事だ。
新人会計士を受けもって一番困るのは、何の相談もなく順調に進んでいるかのように見えて、現場最終日に実は全然終わっていないことがわかったり、大きな問題が発覚するような場合。
新人であれば仕事が遅かったりミスをするのは当然であり、早めに相談してくれれば周りがいくらでもサポートできる。
プロフェッショナルとして自分の仕事に責任を持つのは重要なことだが、新人のうちは一人で抱え込みすぎず、困った場合はすぐ先輩や上司に相談する癖をつけよう。
なお、ホウレンソウが重要といっても何でも自分で考えずすぐ周りを頼ろうとするのは良くない。
相談するにしても、まずは自分で考え、自分で調べた上で先輩に相談すると好印象だ。
予習・下調べを行う
監査人として現場に出る前にクライアントの情報をしっかりキャッチアップすることは監査の基本中の基本である。
当然ながらクライアントの情報をきちんと把握しないと正しい監査はできない。
現場に出てからではなく、現場に出る前にきちんと予習をしよう。
その際にチェックすべきは以下のもの。
- クライアント企業の有価証券報告書等
- クライアントの業界のニュース・記事
- 前期長所
- 計画長所
クライアント企業の有価証券報告書
クライアント企業の有価証券報告書に目を通すのは基本中の基本である。
財務諸表の情報はもちろんのこと、有価証券報告書には色々な情報が載っている。それを分析し自分なりに分析するようにしよう。
もし気になった点があれば、前期調書に目を通したり先輩に質問して事前に情報をインプットしておければより良い。
細かい数字は覚える必要はないが、全体観や重要な指標の大まかな値は暗記できているぐらいが理想だ。
(例えば総資産、売上、利益率、流動比率等。ざっくりで良い)
クライアントの業界のニュース・記事
クライアントの業界に関するニュースや記事に目を通すことも重要だ。
こうした業界の情報はクライアントとの会話の中で当たり前のこととして会話が進む。
新人であってもそうした話題についていけないのは非常に恥ずかしい。
逆に朝イチの会話で「そういえば今日の新聞に◯◯のこと載ってましたね」という話題を自分から出せれば、それだけで「こいつちゃんと情報収集してるな」と思われ印象は良い。
日頃からクライアントの業界のニュースや新聞記事に目を通すように心がけよう。
新聞全てに目を通す時間がない場合は、googleアラートや株ニュースアプリなどでクライアント関連のキーワードを登録しておくと、最低限の情報は漏れなくキャッチアップできるのでおすすめだ。
前期調書
自分の担当科目の監査手続きを行う上では、事前に前期調書に目を通しておくことも大事になる。
前期調書に目を通して、自分がやる手続きや作る調書のイメージが出来ているかどうかで仕事のスピードは驚くほど変わる。
ただし気をつけたいのは、前期調書はあくまで参考程度に留めるべきという点。
前期調書は必ずしも正しくない。特に新人が担当する勘定科目の前期調書は、去年の新人が作っていることが多く、実はけっこう課題が多かったりする。
前期調書を鵜呑みにせず、自分なりに考えて改善する姿勢が重要だ。
計画調書
新人のうちはなかなかしっかり目を通していない人が多いが、監査計画に関する監査調書に目を通すこともとても重要だ。
監査計画には、そのクライアントがどんな企業で、どんな論点があり、どんな意図でどんな監査手続を行うのかが詳細に書かれている。
計画調書は量は多いが、監査計画のサマリー調書だけでもしっかりと目を通しておきたい。
計画調書についてしっかり目を通している新人は多くないので、計画調書をしっかり読み込み、疑問点等あれば事前に先輩やインチャージに質問すると、その姿勢を高く評価してもらえるはずだ。
期限を遵守する
会計士であればご存知の通り、監査というのは明確に期限が定められた仕事である。
そして当然ながら、監査を期限内に終わらせるためには、個々の担当者が自分の担当科目を期限内に終わらせることが必要になる。
監査法人に入所すると、最初の現場からしっかり担当科目が割当られる。
自分の担当科目は必ず期限内に終わらせるように意識し、しっかりと余裕をもった計画をたてよう。
期限内に終わらせるコツは、時間のかかる手続きについて計画的に対応することと、先輩に適時相談すること。
例えば、取引の中からサンプルを抽出して証憑を確認するような手続きの場合、早めにサンプルを抽出してクライアントに依頼を投げる必要がある。(期限ギリギリになってサンプル抽出し始めると間に合わないことになりかねない)
あるいは確認状のように送付してから回収までに時間がかかる手続きは最優先で行う必要がある。
このように、時間がかかる手続から優先的に行うことが重要で、そのためには手続きの全体観をしっかり把握した上で計画を立てる必要がある。
また、初めての監査では時間の使い方が今ひとつわからないものなので、自分の進捗を適時先輩に相談することをおすすめする。
なお、どんなに頑張っても期限内に終わらない場合はどうしてもある。そういう場合は前述した「ホウレンソウ」の徹底が重要になる。
仕事が遅かったとしても、自分の進捗の遅れをしっかり報告してくれる部下は上司にとっては安心感を持ちやすく評価されやすい。
クライアントと積極的にコミュニケーションを取る
書類やパソコン画面ばかり見ていては決して正しい監査はできない。
クライアントの担当者としっかりと会話して話しを聴くことが重要になる。
会計士であれば誰でも知っているが「質問」は監査において基本かつ最も重要な手続きだ。
だが、新人のうちは自分に自信がないし緊張するので、クライアントと話すのを避けがちな人も多い。
だからこそきちんとクライアントとコミュニケーションをとれると、それだけで新人としての評価はあがる。
このあたりは前職の経験がある方はすんなりできるが、新卒だと最初はなかなか上手くいかないものである。
クライアントとうまくコミュニケーションをとるコツは、事前にどんなことを質問したいのかをリストアップしておくこと。
最初はいきなり質問をしようとすると緊張してテンパるので、聞きたいことはノート等にリストアップしておくとスムーズだ。
また、疑問点があるとその場その場でクライアントを呼び出して質問していると、担当者の方の負担も大きくなる。
疑問点はリストアップして、時間がとれるときにまとめて質問するようにするよう心がけよう。
自分で調べたり考えてから相談する
ホウレンソウの徹底については前述したが、何か困って相談する場合も、必ず自分で調べたり考えてから相談する癖をつけよう。
確かに相談することは大事なのだが、新人の中には自分で調べもせず何でもかんでも先輩に質問してしまう方もいる。
気持ちはわからないでもないが、一人の会計士として現場に出る以上プロフェッショナルとしての自覚をもってまずは自分で考えてみよう。
自分で調べるときはまずはググってあたりをつけてみるのが一番早い。
それから会計処理等であれば基準や法律を調べる。
最初のうちはなかなか難しいが、他社事例を調べるという方法もある。
最終的に先輩に相談するとしても、ある程度調べた上で、自分なりに調べた内容や考えたことを説明した上で相談すると印象はだいぶ変わる。
とはいえ自分で調べることに時間を使いすぎても仕事が遅れるのでまずは5〜10分程度調べてみて、あたりがつけられなければあきらめて相談してみるのがおすすめだ。
自分の意見は積極的に発言する
新人であっても一人のプロフェッショナルである以上、自分の意見は積極的に発言すべきだ。
実際、会計士試験に受かっている以上、会計・監査に関する知識はそれなりにあるので、そこは自信を持っていい。
自分の意見を言うときに重要なのは、なぜそう思うかをきちんと示すこと。
「私は◯◯だと思います。なぜなら〜」と理由・根拠までをしっかり話せれば、内容が間違っていても全く問題がない。
むしろ、正解がわからないと発言しない新人より、間違っていても自分の考えをしっかり発言する新人の方が間違いなく評価される。
自分の意見を発言すべきときは色々あるが、例えば監査手続を行う上で、指示された内容よりも優れた手法があると思えば自分はこう思うと発言する。
特に、新人は前期調書の内容をそのまま踏襲しがちだが、前期調書はあくまで参考であり、自分で改善すべきと思ったら周りに相談した上で自分なりに調書を直すべきだ。
あるいは、クライアントと話す中で間違いを見つけたら、曖昧にせず正しいと思うことを主張すべきだ。
但し、自分が知識不足な場合もあるので、クライアントに改善を提案する場合は事前に先輩や上司に相談して、自分の意見が間違いではないことは確認しておく必要はある。
業務に関することだけでなく、例えばランチタイムの雑談であっても積極的に会話に参加するといったことも意外と重要だったりする。
監査部屋では周囲の会話に耳を傾ける
意外と重要なのが、「周囲の会話に耳を傾ける」こと。
これは現場に出るとわかるのだが、監査人が常駐する部屋では色々な会話が起きる。
自分と関係ないところでの会話が、自分の担当科目に密接に関わってくることもある。
また、監査チームのインチャージとクライアントの経理部長の会話には、その会社の大きな動きをつかむヒントがたくさん含まれている。
また、自分が先輩になると、自分の担当をこなしながら、後輩会計士をサポートしなくてはならない。
ただ黙々と作業をするのではなく、監査部屋でおきる会話にそれとなく耳を傾けることは実はとても重要だったりする。
audit(監査)の語源は「聴くこと」というのはよく言われるが、自分が会話している中での相手の発言だけでなく、周囲の会話についても聴く癖をつけたい。
確認状の回収を徹底する
あえて監査手続を1つあげるとすれば、「確認」の手続きについては新人のうちから重視したい。
確認はご存知の通り取引先等に確認状を送付して回答をもらう手続きだが、その発送や回収作業は新人が担当することも多い。
確認の手続きは特別難しい手続きではないが、非常に重要な手続きである。
なぜなら、外部に直接回答をもらえる確認は極めて証明力が強い手続きであり、簡単に他の手段で代替できない。
それに加えて、発送から回収までの期間が長いため、適切なタイミングできちんと作業を行わないと監査が遅延する原因になるのだ。
そのため現場に入ってから確認状の発送漏れに気づいたり、監査終盤で確認状の回収漏れが発覚したりすると大騒ぎになる。
それゆえに確認状のコントロールは新人が担当する業務の中でも最も重要度が高いと言える。
それだけに、確認状の回収業務までをきちんとコントロールしていると、それだけで新人としての評価は高くなる。
確認状のコントロールで重要なことは、とにかく抜け漏れがないように丁寧に作業をすること。
例えば、毎年確認状を送っている銀行であっても、確認状の項目への記入漏れというのは必ずと言っていいほど起きる。記入漏れがおきやすい箇所をマーカーで強調したり、ふせんで注意をうながす等、地味な作業の積み重ねが回収率をあげることに繋がる。
また、常に回収状況を把握しておき、ちょっとでもスケジュールが遅れたらすぐに先輩や上司に報告して、督促や再発送といった次のアクションをとることも重要だ。
最低限のPCスキルを身につける
ソフトスキル的な話になるが、監査の現場に出る前にある程度のPCスキルは身につけておきたい。
具体的には以下のようなことだ。
最低限のブラインドタッチ
完璧にできる必要はないが、なんとなくキーボードを見なくともタイピングが出来るようにしておきたい。
ブラインドタッチができるのとできないので仕事のスピードには絶望的な差がつく。
新人のうちはただでさえ仕事が遅いので、せめてタイピングで時間を無駄にすることがないように最低限のブラインドタッチはできるようにしておこう。
「寿司打」等の無料のタイピングゲームがあるので、それで練習しておくと良い。
最低限のショートカット
PCのショートカットは探すと無数に出てくるので、全部を覚える必要はないが、よく使うショートカットは意識して覚えよう。
一例にすぎないが、例えば以下。
- Ctlr + c:コピー
- Crlr + x:切り取り
- Ctlr + v:ペースト(貼付け)
- Ctrl + z:処理を戻す
- Ctlr + f:検索
- Ctlr + 十字(矢印):端まで移動
最低限のエクセルの操作
監査で最も頻繁につかうアプリケーションはエクセルだ。
エクセルの基本的な関数はなるべく早く覚えよう。
一例にすぎないが、例えば以下(関数意外もありますが)。
- sum
- vlookup
- sumif
- round/roundup/rounddown
- ピボットテーブル
- セル内改行
エクセルを早く習得するコツは、少しでも作業に時間がかかると思ったらググるか先輩に聞くかしてそれをメモっておくこと。それを繰り返す。
時間がかかりそうな集計はだいたい関数で解決できる。
なお、もし本を一冊買うとしたらこちらがおすすめだ。
最後までやりきる
最後に、ホウレンソウと並んで最も重要なことは最後までやりきること。
監査は地道で泥臭い作業も多い。
時間が限られた中で仕事を終わらせるためには夜中まで残業をしなきゃいけないこともある。
新人のうちは初めてのことが多くて、精神的にもつらいと思う。
それでも音を上げず、最後までやりきることが非常に重要だ。
新人のうちは相談すれば先輩が助けてくれる。
しかし、安易に先輩を頼るのではなく、自分の割当科目は絶対に自分でやりきるように最後まで頑張って欲しい。
「あいつは逃げずにやりきるやつだ」という評価は、監査においては非常に重要だからだ。
最も場合によっては本当に終わらないこともあるので、適時相談することは大事だ。
自分の仕事が遅れたり悩んだときは適時相談しつつも、最後まで自分でやりきるようにすると、結果的に自分の成長にもなるし周りからの評価にもつながる。
まとめ
以上、私なりに思うデキる新人になるためにやるべき10のこととしてまとめみた。
新人には新人にしかない大きな特権がある。
それは失敗してもいいということだ。
新人なので出来ないのは当然だし、わからなくて当然。
だから失敗したって気にしなくていいし、わからないことは何でも聞いていい。
そして、失敗して当たり前ということは、逆に言えばちゃんと仕事ができればとそれだけで高い評価が得られるということでもある。
そして、新人の評価はほんとにちょっとした、些細なことで決まったりする。
新人の時期は失敗して当たり前だが、ビジネスマン人生のスタートとなる重要な時期でもある。
この新人にしかない特権を最大限活かして、是非良いスタートダッシュを切って欲しい。
なおTwitterでも情報発信をしているので良ければフォローして下さい。
GTRさん
いつも示唆に富む記事
をアップしてくださって
ありがとうございます
佐々木渡部ノゾミさん
いえいえ。
こちらこそいつも見て頂いてありがとうございます!
GTRさん、こんにちは!
質問があります。
予備校の先生(監査法人で会計士として勤務経験あり)によると、監査法人に入ると、もうすべて丸投げと聞いたのですが・・・
先輩「これは、勉強したよね?はい、やって」とこんな感じで。
もともと、プロフェッショナルの世界だから、納得もしたんですが・・・
確かにアルバイターじゃないんだから、手取り足取り教えてくれるわけないし。
実際はどうなんでしょうか?
また、監査法人は就業時間が遅いと聞きました。
これは、多くの方は嬉しいと思うのでしょうが、朝型人間の僕にとってはちっとも嬉しくありません。
というか、残業残業になるくらいだったら、朝、やったほうが絶対に効率性はいいです(人にもよりますが)。
僕自身、勉強は朝の4時からやっています。
そっちのほうがはるかに効率よくできるので。
監査法人ではフレックスタイム制みたいなのは導入していないのですか?
ムッタさん
コメントありがとうございます。
すべて丸投げってことはあんまりないと思います。
ちゃんとOJTしてくれますよ。
ただ新人が現場に投入される時期はちょうど繁忙期でみんなあんまり丁寧に教える余裕がなくて放置気味になっちゃうことは実際ありますね。
監査法人はフレックスタイムはないです。そもそもクライアント先にお邪魔するので、相手のスケジュールにあわせます。
自分が朝4時から仕事したいと思っても、クライアントの人に朝4時に来てもらうわけにはいかないので。