※登場する人物名・組織名は全て仮名です。
1ヶ月の新人研修は人生の中でも最も気楽な日々だった。
補習所があったので研修中は定時より早く終わりになる。毎日9時半から17時。もちろん残業なし。
これからの自分の将来にわくわくしつつ、研修は学校の授業みたいで超気楽。
それでいて月収30万。
こんなに気楽でいいのかと思うほど気楽。
研修は事務所の本部研修施設で行われる。
200人が5部屋ぐらいに分かれ、一部屋40人。
一部屋のなかでさらに6人ぐらいのグループに分かれて1日研修を受ける。
同期の交流を深める目的もあり、グループは毎日変わる。
仲良いやつとグループになると1日楽しいし、知らないやつとグループになれば新しい友達が出来る。
かわいい子と同じグループになると心の中でガッツポーズ。
最初の1週間は一般的なビジネスマナーとかが中心。
社会人としての身だしなみチェックとか、名刺の渡し方とか、メールの返し方とか。
最初はみんな緊張感持ってたが、1週目が終わる頃には段々寝る奴も出てくる。
2週目にはコミュニケーションの仕方や、みんなで課題を解決するグループワークが中心になってくる。
グループワークは相当楽しかった。みんなとワイワイ議論しながら学生に戻った気分。
夜は毎日飲んだり、ボーリングしたり、ダーツしたり、ラーメン食ったり、補習所行ったり。
その頃は朝はなるべく早く起きて新聞読んで英語の勉強してた。なんか俺できるサラリーマンっぽいぜと自己満足。
そして研修受けて定時後は遊びまくった。
3週目ぐらいから徐々に監査に関する研修が始まる。
監査の研修はゲームみたいな感じで、これも楽しかった。
財務諸表を分析して異常を発見するゲーム。
実査、立会、確認を模擬的にやって、問題点を発見するゲーム。
クライアント先の経理部長役の講師から質問により監査証拠を入手するゲーム。
段々と実践的な内容になっていく。
最後には実際に現場で使う監査ツールを用いた模擬監査。
研修の中でだんだんデキるやつとデキないやつも見えてくる。
後半の研修はグループワークをして、それを各グループの代表者が発表する。
リーダーシップを発揮しグループをうまくまとめるやつ、しゃしゃり出ては来ないが鋭い意見を言うやつ、発表がむちゃくちゃうまいやつ。
研修中特に目立っていたやつが何人かいた。
桜田は見た目はホスト。マナー研修の時にこの長髪はありえないと外部講師のおばちゃんに注意されていたが完全無視。TOEIC950点で英語もペラペラ。入社3年目で外資銀行に転職し今は相当激務だがかなり稼いでいるライい。
吉本は休憩時間もずっと勉強していて相当目立っていた。かなりビッグマウスで人の批判も平然とする、本田圭佑みたいなやつ。入社2年目で退職し、1年間海外を放浪した後今は起業準備中だ。
監査法人の動機は大部分が辞めてしまい、みんなバラバラな道に行くが、優秀なやつが多くてすごく刺激をくれる。辞めたやつらとも頻繁に連絡を取るが、相変わらず熱いやつらで自分も負けてられない。
気楽で楽しい日々だったが、こうした出会いに刺激を受けて、早く現場に出たいという思いが日に日に強くなっていく。
そして2月の終わりになり、部門の配属発表の日が近づく。
新人研修中最大のイベントだ。
部門配属は各自第1〜第3希望の部門を書いて提出し、個人の希望、英語等の能力、面接時の評価、その他もろもろ調整されて配属が決まる。
発表の日は大々的に発表されるのではなく、気づいたら研修してる間に配属表が廊下に張り出されてた。
「配属表出てるぞ!」
誰かの声にみんなが一斉に廊下に出る。
「おっしゃ狙い通り海外事業部だ!」
「俺国内二部だ!お前も?一緒じゃん!やったぜ!」
「〇〇ちゃんも同じ部門らしいよー!補習所仲良し組そろったね!」
「うわー、国内一部かよー。あそこ残業むっちゃ多いらしいんだよな。マジかよー。」
「俺第3希望にしてた金融に来まっちゃったよ。最悪やー。」
そんな声があちこちから聞こえてきた。
私は第1希望であった部門に配属が決まった。
今でもこの部門に入って良かったと思うが、部門選びに関して今だからこそ思うことがいくつかある。
1つは、当時は有名な会社に行きたいと思っていたけど、小さい無名な会社に行ってる時の方が最初は成長できるってこと。
最初は、誰もが知ってる大企業に行きたいと思いがち。確かに大企業になると、しっかりした内部統制があって勉強になるし、上の年次になると大きな監査チームをマネジメントする能力は相当鍛えられる。ただ、大企業になると監査チームが数十人になる。その中で最初に任せられる仕事はかなり限定される。
一方中小規模のクライアントだと監査チームは4〜5人ぐらいが多くなる。2〜3人の監査チームも少なくない。メンバーは自分と主任だけ、自分が全部監査調書を作って主任はレビューするだけなんてこともけっこうあるし、1年目から重要な勘定を担当できたり、スタッフでも主任を任されるようなこともある。
監査法人で経験を積んだらさっさと転職する予定の人は、そういう小さい会社をたくさん見れる部署へ行くのがおすすめだ。
あと、今でこそ思うことがもう一つ。もし監査法人で英語を使って活躍したいと思ってる人は、海外事業部ではなくあえて国内の部署に行く方が活躍の機会は多いかもしれない。
海外事業部はもちろん英語に接する機会は多いが、英語ができる人が多いので自分が英語を使って活躍する機会は結構少なかったりする。海外へ行く機会はチームの先輩が優先され、自分が行く機会がなかなか巡って来なかったり。
一方、国内やミドルマーケット部門は英語ができる人が限られるので、英語人材に英語案件が集中する。
結果として活躍する場は増えるし、海外子会社担当を任されて海外事業部のやつより海外出張が多かったりするのだ。
私は自分の志望する部門に行けたわけだが、もちろんみんながみんな自分の行きたい部署に行けるわけではない。
優秀な人が自分の希望先へ行けるかと言うと、そういうわけでもない。
優秀なやつを一つの部門に集めすぎるわけにもいかないので、なんとなく優秀なやつはバラけさしたりしているらしい。
国内部門が第一志望でも、英語が出来るがゆえに海外事業部へ行かされた奴もいたので、自分の行きたい部署に行くには色々工夫が必要かもしれない。
今は就活の時に人をつなぎとめるために、内定承認を条件に希望の部署へ行かせることを確約するようなこともあるらしい。
就活時にはそうした交渉をしてみてもいいだろう。
そんなこんなで自分の配属が決まり、一ヶ月の研修生活も終わりを迎える。
いよいよ現場デビューが近づいてきた。
なお、2月25日には初任給が手取りで25万円振り込まれた。
みんなで買い物に行き、ビジネスバッグや名刺入なんかを買って、夜は叙々苑で焼肉を食べた。
続く。
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